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Column

動物福祉を考える

動物福祉コラム

アメリカ視察旅行その1

2018.02.01

アメリカでの動物福祉診療の現状を視察し、日本でのビジネスモデルとしての検討を行うため、2016年8月に視察旅行としてアメリカのロスアンジェルスに行く機会を頂きました。現地でのコーディネイトは、地元で長年動物病院を運営していた西山ゆう子先生に引き受けていただきました。

1、HEMOPET:グレーハウンド専門のレスキュー × 血液バンク × 獣医診断検査

http://www.hemopet.org/
この施設は血液バンクと検査を行う医療機関、使役(ドッグレース)犬の保護施設を兼ねた施設です。アメリカ国内で行われているドッグレースの施設から、引退犬を引き取り、一般家庭へ譲渡するまでの1年間に、家庭犬としてのトレーニングとケアを行いながら、定期的な供血を行い医療機関に提供するというシステムで施設を維持運営しています。また、施設内には血液検査用のラボがあり、動物病院からの依頼で検査を行い、結果データを専門家の解析と共に提供できる検査機関を併設しています。
レース用に繁殖され飼育されていたグレイハウンドを、一般家庭で飼えるようにトレーニングをするために1年という期間を設けており、その間犬の体調に負担のかからない頻度で採血を行う。採血された血液を保存し、一般獣医師に提供するための血液バンクとしての機能をもたせ、施設の維持を行うというモデルです。日本でもペット動物用の血液バンクの需要はあるのですが、血液は保存できる期間が短い事、需要に伴う供血が可能なサイズの同犬種を管理する施設の維持管理との採算が合わないことが普及しない原因と予想されます。

走る事、レースに勝つ事のみ期待され、何らかの理由でその期待が外された後の犬生を、人の手で最後まで全うさせたいと考えるのは当たり前の情なのでしょう。日本では競走馬の世界で同じ環境があり、レースで活躍する一握りの馬たちの、何十倍もの数の馬たちが誰にも知られずその馬性を閉じているという現実があります。人の娯楽に供される経済動物の福祉を向上させるための道のりはまだ遠いのでしょうか? この施設のモデルは、そんな現実を少しでも変えることのできるものだと感じました。

『アレルギーを持っている子には、人用の無添加の魚の缶詰と豆で解決できるの!』 犬たちの世話をしている獣医師のその言葉の信憑性は・・・?!

2、TWO HANDS FOUR PAWS

《 自然療法×リハビリ×デイケア(介護・保育・水泳)》
http://www.twohandsfourpaws.com/
犬の物理リハビリセンターです。動物病院というよりも、リハビリや犬のケアをメインとした総合施設といったイメージでしょうか。リハビリや自然療法の知識を有する獣医師(日本人獣医師もいましたよ)と、犬の理学療法を学んだエキスパートがスタッフとして働いています。印象的だったのが、施設の中央部に設置された大きなプールです。ここでは関節に問題を抱える犬や、手術後のリハビリも行いますが、犬に水泳を学ばせるスイミングスクールとしてのサービスも提供しています。 飼い主にとっては保育園や学校、老犬ホームやリハビリなど、犬との生活を楽しみながら、それぞれが必要とする専門的なケアを、エキスパートに任せることのできる施設です。
鍼や灸による治療。トレッドミルやバランスボールなどを使ったリハビリや予防ケア。デイケアでの介護や遊びまで、予約は連日100頭を超えるという繁盛施設でした。

3、CARE(CALIFORNIA.ANIMAL.REHABILITATION)

《獣医師+理学療法士=総合的なリハビリテーションサービス》
https://www.calanimalrehab.com/
獣医診療に、リハビリの機能を持たせた動物病院です。
こちらの施設スタッフは多彩な専門性を持つ獣医師が多く、初診時に時間をかけて体の状態を総合的に確認し、必要な治療やリハビリの方針を決め、治療を進めるという流れでサービスを提供しています。総合的な体の状態の確認とは、西洋医学的な物理検査だけではなく、東洋医学的な証の見立てや、生活スタイル、食事、飼い主との関係性などをも含め総合的に判断を行うのだとか。利用者は少し離れた高級住宅街にも多いとの事で、こちらも地域では需要が多く、スケジュールはぎっしり詰まっていました。

また印象的なのは、犬のレスキュー団体と提携し、重度の機能障害のある保護犬に対しての治療支援(CARE-FREE program)を行っている事でした。病院の専門性を生かした支援は、レスキュー団体に対してと、その後生活を共にする新しい飼い主に対しても提供されるのだそうです。

4,ACCESS Specialty Animal Hospitals

高度医療×救命救急×各種専門医療サービス
https://accessanimalhospitals.com/ この施設は24時間の救命救急医療と、IR・内視鏡などの高度医療、整形外科、内科、脳神経、腎臓・泌尿器、エキゾチックなどの専門医療に特化した動物病院です。
施設はほか専門診療に特化した動物病院が複数集まる建物(Angels Veterinary Speciality Centre)の中で、それぞれが連携した医療サービスを提供しています。 この建物自体が地域の高度獣医療を担う役割を果たし、各動物病院は診療以外にも地域獣医療の診断や治療方法などを研究し、スタンダードとして広める役割も持っているようです。

施設内は都会的なデザインで、利用する方の快適も考えられた内装となっていました。 待合室には獣医師たちの写真入りプロフィールが飾られており、とても好印象でした。
バックヤードには動物病院ではあまりお目にかからない大規模な専門医療機器が設置された部屋が複数あり、特に手術室には5台並んだ手術代を囲み、多くの獣医師たちが忙しそうに治療を行い、ちょっとした『ER』の世界を体感できました。エキゾチックのアニマルの病室では、骨折したという陸ガメに説教しながらケアを行う専門獣医師の姿が印象的でした。 どこを見ても洗練された空間となっており、『かっこいい』施設でした。

今回動物病院は4施設、医薬品問屋を1施設 訪問させていただきましたが、日本と大きく違う気づきがありました。

① 動物看護士の仕事内容がより専門的である事。
② 獣医の診断・治療に明確なスタンダードがある事。
③ リハビリやケアの需要が高い事。
④ 西洋医学だけではなく、サプリメントやホリスティックな製品が医療現場で多く使われている事(※これは訪問先が特化しているからかもしれませんが。)
⑤ すべてのスタッフがなにがしかの資格(専門分野)を持ち、プライドを持った仕事をしている。

他にも動物病院のCSR、専門獣医師資格、動物保護団体との提携(慈善活動)など、日本にはない文化や慣習もあり、多くの学びとヒントを得ることが出来ました。
また獣医師や専門スタッフの方たちの個性も豊かで、大いなるアメリカの懐の深さを改めて実感した視察となりました。